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台湾のテレビ局PTSと、日本NHKが共同制作したドラマ『路(ルウ)~台湾エクスプレス~』が三回連続で放送されました。主に台湾を舞台に物語が展開していきますが、よりドラマの内容を楽しめるよう、日本在住の台湾人の視点から、台湾の歴史や文化について紹介したいと思います。
ドラマ『路』のあらすじ(ネタバレなし)
このドラマは、『悪人』などでもお馴染みの吉田修一が書いた原作小説『路』をもとに製作されています。ネタバレなしで少しだけあらすじを紹介します。
— 総合商社に勤める主人公の多田春香は、台湾新幹線プロジェクトの一員として台湾に出向する。彼女は大学時代に一人台湾へ旅行に行ったことがあり、その時に出会った青年エリックと、ひと夏の切ない思い出があったが、その後再会することもなく、この記憶を封印してしまった。 そこから6年後、春香は新幹線開設のために再び台湾を訪れる。台湾新幹線プロジェクトを主軸に、春香やプロジェクトの同僚、台湾に住む人々、そしてエリックの物語が動き出す。果たして、春香はエリックと運命の再会を果たせるのか・・・??
— 私は原作小説を読みましたが、春香とエリックの線をはじめ、同僚安西とユキ、「湾生」の葉山勝一郎、高雄に住む幼馴染・李梓誠と吳玳昀の話など、複数の線が鉄道線路のように交差していくところが好きで、読み応えがありました。改めてドラマで見ると、馴染みの景色や言葉がたくさん出てきたので、台湾人が着目したポイントを説明していきます。
台湾における鉄道の二強:台湾高速鉄道 と 台湾鉄道
台湾新幹線 こと「台湾高速鉄道」は、台湾では「高鉄」と呼ばれています。ドラマの冒頭で、「高鉄?」と春香が台湾人の同僚に聞き返していましたね。
◇ 台灣高速鐵路(高鐵) ドラマの内容通り、高鉄は1999年から建設を始め、2007年に開通しました。もともと最北端の台北(正確には基隆)から、南の高雄まで、在来線やバスなどで4~5時間ほどかかったものの、高鉄が完成してから1.5~2時間まで短縮されました。運営会社は当初民営でしたが、途中で財政難などのうわさもあり、最終的には政府へ譲渡され、政府が所管する上場企業となりました。 路線図は下記リンク先の通り、北から南まで縦断しています。私も大学に入ってから、何度か高鉄に乗って台南まで遊びに行きましたが、本当に早くて便利でした。
◇ 臺灣鐵路管理局(台鐵) 一方、高鉄が完成する前は、もともと「台湾鉄道」、略して「台鉄」という在来線がありました。台鉄は交通部(台湾の国土交通省)が管理する鉄道です。歴史も長く、台湾が清朝に統治されていた時から日本植民地時代を経て現在に至ります。車種も多く、普通車から快速、特急まで色々あり、観光客に人気な九份まで行く時に乗るローカル線「平渓線」も、すべて台鉄の一員なのです。下の路線図を見ると、高鉄ではいけない東の方や、各地のローカル線など、幅広く網羅されていますね。(真ん中に鉄道がないのは、中央山脈が走っているからです。)
ちなみに、台鉄というとローカル感満載の「鉄道弁当」が有名です。また、今は少し良くなりましたが、よく遅延することでも有名でした。私も高校の時から台鉄で通学していましたが、遅延すると駅で夜食を爆食いして電車を待っていました(笑)
「中国語(北京語)」と「台湾語」
このドラマのすごいところは、日本や台湾の役者さんが、日本語や英語、中国語など、多言語で話すところですね。
ドラマの途中から舞台が変わり、台湾南部の高雄に住む青年・李梓誠(リー・ズーチェン)と、幼馴染の吳玳昀(ウー・ダイユン)が登場します。李梓誠が実家でお母さんと話している時、実は中国語ではなく、「台湾語」という言葉を話しています。
台湾の歴史と言語
ここから台湾の歴史を簡単に紹介します。台湾という島に漢民族がやってくる大昔前、もともと原住民が住んでいました。明朝・清朝の時代になると、福建省・広東省をメインに漢民族が移民してきて、そこから福建語(後の台湾語)が広まります。その後、日清戦争で清朝が敗れると、1985年~1945年の間、台湾は日本の植民地となりました。この時、台湾に日本人が多くやってきて、学校では日本語の教育もされたようです。
そして1945年になると、第二次世界大戦で敗れた日本は、台湾の統治権を清朝に返しますが、その頃すでに清朝はなくなり、「中華民国」という孫文が作り上げた国に変わっていました。なので、日本は台湾の行政権を中華民国に返還します。
しかし、世界大戦後の平和は束の間、その後中国大陸では「国民党」と「共産党」という二つの党派が対立し、内戦が起こります。そして、1949年に蒋介石率いる国民党は南の方へ移動し、多くの軍人、人民とともに台湾へ進出します。この時から、中国大陸には中華人民共和国と、台湾には一時引き上げてきて、台湾の支配を始めた中華民国が存在するという、複雑な政治構図が始まります。
ここで台湾語の話に戻ります。日本では中国語を勉強するというと、「北京語」という共通語を勉強することになっています。ここでいう「中国語」は、正確には中国語のうちの「北京語」です。なぜなら、中国大陸ではもともと各省でいろんな方言があり、「広東語」、「上海語」、「北京語」など、すべて異なる発音で、勉強しないと理解できないほど異なります。
台湾にいた漢民族は、先ほど紹介した通り、福建語から発展した「台湾語」をメインに話していましたが、1949年から蒋介石ら国民党が、中国の北方から台湾にやってきて統治を始めると、福建語のかわりに「北京語」を共通語として定めます。そして、台湾語は方言と見なされ、学校で話すと罰せられたため、台湾語を話せる人がどんどん減ってしまいます。 特に台北などの北部では、国民党らと中国大陸からやってきた人々(外からやってきたという意味で、「外省人」と呼びます)が多かったので、その子孫はもちろん台湾語は話せず、もともと本土にいる人々(「本省人」と呼びます)でも、台湾語を話せる人が少なくなりました。そういう私は両親ともに本省人の家系で、両親や親族は台湾語で会話できますが、私は学校では共通語(北京語)しか使わないので、あまり台湾語が流暢ではありません。そして、大学で一回台湾語で友達と話してみると、他の外省人家系の友達から「面白い~不思議~」と言われてしまった記憶もあります。
台湾の南北差異
ようやくドラマ本編の話に戻ります。
台湾の南部・高雄では、李梓誠(リー・ズーチェン)という青年が登場しますが、彼は実家では「台湾語」でお母さん、お父さんと話しています。台北などの北部では、「外省人」が多く、歴史的背景から台湾語を話す人が減りましたが、南部では比較的「外省人」が少なかったため、ローカルな文化・言語が残っているので、台湾語を話すせる人が多いです。なので、李梓誠みたいに、実家では普通に台湾語を話していますね。
さらに、台湾語は日本植民地時代を経て、日本語を取り入れた新しい単語もたくさん作られました。例えば、ドラマ内で李梓誠(リー・ズーチェン)の母親が、高鉄が出来ても、うちみたいな「あさぶる」な店に誰が来るのか、と話しています。この「あさぶる」は、なんと日本語の「朝風呂」から来ており、「メチャクチャだ」「訳分からない」という意味です。語源は諸説ありますが、日本植民地時代に、朝風呂の習慣のない台湾人が、日本人の朝風呂を見て「理解できない」と思ったのか、農業社会で早起きしないといけないのに、呑気に風呂に入っている人を見て「メチャクチャだ」と思ったからだと言われています。他にも「頭コンクリ」(コンクリートのように固い)など、面白い台湾語のスラングが残っています。
ところで、李梓誠は実家では台湾語を話していますが、幼馴染女の子吳玳昀(ウー・ダイユン)とは共通語(北京語)で会話をしています。やはり学校では、北も南もずっと北京語で勉強してきたので、学校の友達や職場の人とは北京語で会話することに慣れています。私の友達も、南出身の子は親とは台湾語を話しますが、学校では主に北京語で話しています。
なお、近年では台湾の文化を大事にしようという意識も芽生え、学校では台湾語や、さらに少数民族である原住民や、客家人(はっか人)の言葉を教える動きも増えています。 実際に南の方へ遊びにいくと、街中やお店では台湾語で話す機会が多く、台湾の北部とは違う風土・景色を味わえます。南に行くと、言葉やグルメなど、よりディープな台湾を体感することができるので、もし観光に行く機会があれば、ぜひ高鉄を使って南へ足を伸ばしてみてください!
※本記事は下記詳細版を修正したものとなります。
https://diary-ry.com/2020/05/23/174/
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