【台湾 歴史】中国では禁書になっている ~ 国共内戦を壮大なスケールで描いた『台湾海峡一九四九』

台湾海峡1949

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台湾 海峡 1949

ずっと気になっていた『 台湾 海峡 一九四九 』(原書名『大江大海一九四九』)という本を読んだ。

著者は龍應台、訳者は天野健太郎。

龍應台さんは台湾文壇の重鎮で、ベストセラー作家だという。グローバルな生活体験と独自の歴史観の持ち主であることは、読み始めてすぐに分かる。これは単純な歴史書ではなく、文学でもあるということにも気付く。ドイツに住む息子との対話、描かれる歴史の凄惨なシーンの数々は、東アジアから東南アジア、西欧・ロシアへと、行ったり来たりする。知識としての歴史は、少々混乱させられる構成だが、おそらく著者の狙い通り、様々な立場の人々のそれぞれの「痛み」が、読者の脳裏に焼き付けられることだろう。

この本は台湾・香港で42万部を売り上げた。中国では禁書になっているが、密かに買い求める中国人も多いという。

台湾海峡1949

国共 内戦

1945年に日本が敗戦し、台湾からも撤退。その後台湾には中国大陸で蒋介石が率いる中華民国政府(国民党)がやってきて統治を行う。そこで起こるべくして起こった1947年の二・二八事件までは、台湾に関心のある人であれば当然知っているだろう。そして1949年に中国では国共内戦に共産党が勝利して中華人民共和国が成立する。この結果、内戦に敗れた国民党軍と民間人とが大挙して台湾に押し寄せることになる。こうして1945年以降に中国大陸から台湾に渡ってきた人たちが現在、「外省人」と呼ばれている。

日本では中国大陸における「国共内戦」の実像はほとんど知られていないのではないだろうか。そして、ひとくくりに「外省人」というとき、彼らがどのような背景と境遇を経て台湾に渡ってきたのか、私たちの想像力はあまりにも乏しい。本書では国共内戦がどのような戦いであったのか、想像を絶するシーンが多数紹介されている。たとえば旧満州・長春では、日本の敗戦直前にロシア軍が乱入。その際に行われた殺戮には目を覆いたくなる。さらに国共内戦の後期になると、ここ長春では国民党軍とともに中国の住民が、共産党軍の長期にわたる包囲によって取り残され、数多くの人たちが餓死を余儀なくされた。これらの事実はほとんど知られておらず、長春に住む中国人でさえ知らない人が大半だという。また、東南アジアの捕虜収容所において、オーストラリア兵捕虜1500人のうち、その3分の1が日本軍による虐待で命を落としていたという事実を知った。さらに、台湾人日本兵がそこで監視をさせられており、戦後に戦犯になった人もいるということも、初めて知った事実である。

 

何度も登場する著者の視点の一つは、「加害者側はその後どのような悲惨な境遇に遭ってもそれを世間に知らしめることはできないだろうか」というものだ。加害者と被害者、勝者と敗者、白か黒かと決めつけるのは簡単だが、いったん加害者側の家族や親族という立場に置かれたら、被害者の一族・子孫にどのような酷いことをされても何も言えない…. こういう風潮は世界的に存在すると著者は指摘する。旧満州・長春では撤退する日本人家族、そして国民党軍、さらには長春に住んでいた住民がそのような立場になる。かつての加害者側に色分けさてしまった人たちが、残酷な手段で死に至らしめられた事実は、歴史からは抹殺されてしまいがちだ。『台湾海峡一九四九』はこうした痛みの記憶を一つ一つ丁寧に描き出している。

 

台湾社会は比較的、白黒をはっきりつけようとする傾向があるように感じる。日本社会が白黒あいまいでグレーゾーンを多く残しがちなのと対称的だ。国内に大きく背景の異なる層が混在する社会と同一民族が多数をなす社会では、その民主主義の形も異なって当然だろう。とはいえ、白黒はっきりさせながら二つの異なる勢力が「対話」をすることで理解を深めることができるのかどうか、私には良く分からない。

対立が一線を越えたときに起こる悲劇は、その後の社会に深い亀裂を残し、それが薄まることはなかなかない。1947年の二・二八事件は、まさにそのような悲劇であると思う。その加害者側に色分けされてしまった外省人が、どのような境遇を経て台湾に渡ってきたのかを大きなスケールで描いた本書の価値は、両方の立場への「想像力」を培ってくれることだ。最近読んだ本によれば、この想像力のことを「認知的共感」という。感情として「情緒的共感」を持てるようになるのも想像力だが、理性で相手の立場にも立てる「認知的共感」が、国境や民族を超えた相互理解のカギとなるという。それはもちろん容易なことではないが、現在も濃厚に引きずる感情的亀裂を少しでも埋めていくには、すべての人が様々な立場や境遇への想像力をもっと持てるようにするほかない。

 

台湾 歴史

『台湾海峡 1949 』は、冒頭でも述べたように、歴史書のようでいて文学のようでもあり、大きな歴史的スケールから多くの人たちの記憶をすくい上げた資料でもある。本書の価値を真に享受するには、まず台湾の基本的な歴史を知ってから本書に取り組むことをお薦めしたい。例えば以下のようなものがお薦めである。

 

台湾―四百年の歴史と展望』(伊藤潔、1993年、中公新書)

裏切られた台湾』(ジョージ・H. カー、2006年、同時代社)

増補版 図説 台湾の歴史』(周 婉窈、2013年、平凡社)

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