【 初心 André & his olive tree / アンドレ チャン / 江振誠 レストラン / 台北 RAW / 八角哲学 / グランメゾン東京 / 誠品映画館 / 松山文創園区 誠品 】
(日本語翻訳=Tannen、Kotaro)
目次
初心を忘れぬシェフ〜 江振誠 ( アンドレ チャン )
テレビドラマ『 グランメゾン東京(Grand Maison Tokyo) 』で、シェフの潮卓が主人公の尾花夏樹にに最初の包丁を買い与えたとき、「どこにいても自分のルーツを忘れてはいけない」と言ったシーンがあります。尾花はこれをきっかけに料理人としての道を歩み始め、料理の中心に人を置いていきます。ドラマの中のメニューを作ったその人は岸田周三氏で、東京にあるミシェラン三つ星の人気レストラン「Quintessence」のシェフを勤めていますが、台湾の有名レストラン「RAW」の江振誠シェフとは、フランス留学中に知り合った友人です。 (一番上の写真は誠品松山文創園区で撮ったものです)
『 初心 : André & his olive tree 』
私はアンドレ・チャン(江振誠)シェフがシンガポールでオープンさせたレストランで働いていたときのことをコラムとして出版した『初心』という本を、数年前に読み、彼のシェフとしての料理哲学にとても憧れて敬服しています。アンドレ・チャンは突如としてミシェラン2つ星を獲った「Restaurant ANDRÉ」のシェフを辞めて、躊躇せずに台湾に帰ると、新たなレストラン「RAW」を台北に立ち上げ成功させました。2020年に入ってコロナ禍となると、飲食業が厳しい状況に陥っている中で、映画『 初心 : André & his olive tree』を公開し、みんなと自分が選んだ道、そしてやりたいことを決めたときの気持ちをシェアしました。自分が抱いている初心と南フランスのオリーブをテーマとして、この数年に積み上げてきた経験を記録映像にしたのです。
生まれつきの能力がなくても、夢を諦めず努力するだけ
アンドレが小さい頃、自ら子供たちに毎日手を掛けて昼ごはんを作ってくれた母親の執念と献身に啓発されて、彼は料理へのこだわりという種を心に植え付けました。調理実習を始めると、時間を無駄にせず、地道に料理やケーキを作ることを覚えて、最も若い台湾人シェフになりました。しかし南仏モンペリエでミシュランの星に輝き続ける『ル・ジャルダン・デ・サンス(Le Jardin desSens)』からJacquesとLaurentという2人のシェフたちが台湾にやってくると、アンドレは躊躇せず 台湾での仕事を辞めて、フランスに留学しました。最初の頃は給料なしのインターンとしてジャガイモを煮ていました。言葉が通じなかったのでジャガイモを作ってばかりいたといいます。数年後、厨房に入るチャンスを得ると、料理を作りながらみんなの役割と仕事をやる順番などをよく観察して、調理過程をしっかりを覚えました。その負けず嫌いの気持ちを持って自分を追い込みながら、強いライバルがいるにも関わらず、フォアグラ料理を作り出し、フランス人シェフたちを驚かせただけでなく、正式メニューにもなったそうです。
「実力がないなら、存在する意味がない」
世界中の様々なレストランの舵取りをしてきた経験から、江振誠シェフ独自の風格が磨かれてきました。シェフに服装に付けている5つのスプーンは、南仏のLe Jardin des Sens、亞洲展店、セーシェル島、JAAN par André、Restaurant ANDRÉのそれぞれで働いたときの初心を忘れないようにするものです。これらの初期的な成長段階は、レストランの運営や管理といった側面から、世界の美食巡り、わざわざ島まで飛行機で飛んでくるお客さんとの会話まで、多岐にわたる経験を積むことでした。このような経験を経て、アンドレは個人のブランドを打ち立てることで、レストランの業績をあげてきたのです。最後の夢は、レンガとタイルで出来た一戸建ての洋風建物。そして木製のテーブルの上のナプキンや食器の置かれる角度は、完璧でなければなりません。
「完璧は存在しないかもしれないが、完璧を求める態度はもっとも強い印象を残す」 八角哲学
台湾人であるアンドレ・チャン(江振誠)は、八角形は円に似ていて、 八角の哲学を象徴していると考えています。彼は8つの哲学、すなわち、塩(salt)、質(texture)、記憶(memory)、純粹(pure)、生育地の気候(terroir)、南フランス(south)、職人精神(artisan)および独特さ(unique)の要素で料理の哲学を表現しています。塩は、合理性と感情のバランスを実現するため、元の味を引き出すための調味料です。質は、自分の枠を超えた画期性をもたらすわけではありませんが、身近な食材でも予想外の味を再形成することができます。すべての記憶は蓄積され、アイデアと創造性の突破口を切り拓きます。食材が育った風土、人々、地理的背景が、それぞれのストーリーを物語ります。自分の味覚の出発点となった南フランスは、地域の多様性の無限の可能性を秘めています。職人の技術は、毎回ゼロから始めるときに、食材とお客様をつなぐ架け橋になります。独特さは、豊かな経験と美的遺産の蓄積によって辿り着く独自の到達点を示します。アンドレ・チャンはこれら8つの要素を用いて、優先順位付けをするのではなく、調和のとれた音を奏でるかのように、美食の饗宴を演じているのです。
「ある料理が完璧に作れる時は、私がこの料理をメニューから除くときです。」
挑戦し続けてこそ、事態のトレンドに適応し、最高峰のものを創り出せます。
「完璧なパズルの最後のピースは、成功を収めることではなく、手放すことです。初心に戻り、内面の満足を振り返る喜びです。」
映画の冒頭は、シェフがユニフォームを脱ぐシーンです。彼は完璧さを独自に解釈し、シェフの最後の姿を完璧な瞬間として残します。
Restaurant ANDRÉを経営していたある一日、店を開く直前にメニューを変えようと言っても、チームは誰も質問さえしませんでした。静かな厨房は映画の中で時計回りから反時計回りに変わるシーンに似ています。初めてチームの仕事が自分よりも優れていると感じました。もともと自分で作ったチームですが、その瞬間、すべてが完璧だと、ベルが鳴り響きました。ミシェランの三つ星を求めることではなく、自分の内なる声に耳を傾けます。これは完璧な終わりの瞬間です。
「成功の背景には忍耐力があり、まぐれはありません」 RAW
アンドレは今は自らが毎日厨房に立つわけではありませんが、台北にある「 RAW 」というレストランの厨房を巡回して監督するときは、粉の撒き方とか、料理の美学、扇風機の音や室温まで、全ての細かい所を大事にしてチームを導いています。アンドレはいつも「完璧なことは存在しないが、ただ完璧を求める」という気持ちを持っています。
アンドレ チャンは、彼を目標とする小さな男の子に対して、「幸せな料理人になりなさい」と言いました。この信念は、究極を追求するために必要なことです。彼の心は自然体であるため、たとえ周囲が騒がしくても泰然自若としていられます。
人生の厚み、料理の深み
シェフの人生の表舞台では、経験が料理に厚みを与え、何層もの意味を持たせています。料理に何層にも何層にも意味を加えるのです。 ザ ランディスホテルの元社長である嚴長壽氏は、アンドレ・チャンはシェフ以上の存在であり、料理の芸術家であると語りました。私自身は、アンドレは厨房の魔術師のような存在で、食材に話す能力を与え、見た目や味だけでなく、品質と融合の本質の背後にある努力まで含めて、料理の価値を教えてくれる存在だと思っています。 (下の写真は誠品映画館の中で撮ったものです)
初心に戻ってからの次のステップ
十数年前からアンドレ・チャンは、「食材のトレーサビリティ」という概念を広めています。台湾に戻ってからの彼は、自分の影響力をどう使うかもよく考えた上で、台湾の飲食業を国際舞台に引き上げ、ファインダイニングのあり方を改革しようとしています。「台湾の味」とは何か、と良く聞かれます。江振誠シェフは近い将来、台湾料理の起源について味と料理のDNAを定義し、体系的かつ系統だった方法で回答を提供してくれるでしょう。台湾ならではの料理レシピと味のプロフィールを作成することによって、私たちは台湾料理の「初心」に戻ることができるようになるかもしれません。 (松山文創園区誠品書店の中です)
他のインフォメーション
予告編 https://www.youtube.com/watch?v=acp6IdYyADA
初心(書籍) https://www.books.com.tw/products/0010583884
八角哲学 https://www.books.com.tw/products/0010712559?sloc=main
誠品映画館 https://www.facebook.com/eslite.arthouse/
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